11/08/01 真の電力改革を◆共同Weekly

今、この瞬間も世界中の原子力発電所から排出される高レベル放射性廃棄物―。それらはいずれも地震などの天災、テロなどの人災が不安視される暫定的な貯蔵施設に蓄積されているのです。
こうした中、フィンランドは世界で最初に高レベル放射性廃棄物の「永久地層処分場」建設を国会が承認しました。首都ヘルシンキから240キロ離れたオルキルオト島の地中奥深くに。マイケル・マドセン監督「100、000年後の安全」は、その建設をめぐる秀逸なドキュメンタリー映画。上映会を7月26日、河野太郎、柿沢未途の両氏と共に議員会館の国際会議室で開催しました。
20世紀末に始まったプロジェクトは、廃棄物が一定量に達すると封印され、二度と開封されることはありません。地下都市とも呼ぶべき巨大施設の耐用年数は10万年。が、果たして未来の子孫は、封印した入り口に書き記した言語や記号を理解するでしょうか。ピラミッド同様、宝物が隠された遺跡だと勘違いするかも知れません。ネアンデルタール人の絶滅は2万数千年前なのですから。
放射能、それは無色透明で無臭の、人間の五官が察知し得ない存在なのです。社会学者ウルリッヒ・ベック氏の言を借りれば、一定の場所、時間、社会グループに被害がとどまる航空事故や列車事故と異なり、放射能汚染は範囲も濃度も蓄積も変幻自在。陸上、海上、空中、地中、海中、さらには体内へと、社会的にも地理的にも時間的にも際限なく被ばくは広がります。
であればこそ、お題目で「脱原発」を唱えて満足するのでなく、具体的で緻密な工程表を早急に示すべき。なのに、国民を疑心暗鬼に陥らせる情報の錯綜(さくそう)と判断の迷走が続いています。
「でんき予報」という名の“大本営発表”も眉唾物です。電気事業連合会が編さんした「電気事業便覧」最新版に記された2009(平成21)年の商業発電の設備供給容量は、火力・水力のみでも1億8800万キロワット。この年、最も電力消費量が高かった8月7日が1億5900万キロワットの消費でした。
差し引き2900万キロワット。原発が全て停止し、火力と水力だけだったとしても、その供給量に対する使用量は84%。100万キロワットの標準的原発に換算すると29基分の余裕です。午後のピーク時に2、3時間抑制すれば事足ります。
7月6日の衆院予算委員会で僕は、高校野球を早朝6時開始とし、昼休みを設けて午後4時以降に再開すべしと高野連に申し入れてこそ、拍手喝采の政治主導とただしたのですが、スルーされてしまいました。
当事者能力を失った“護送船団”の電力事業を改革する上で、「地域独占撤廃」「発送電分離」と並び、「総括原価方式」の撤廃が不可欠。電気料金が米国より2倍も高いのは、「適正な原価」にプラスして「適正な事業報酬」としての3%を掛け合わせた金額で認可される仕組みが原因。
高額な人件費も巨額な広告費も、およそ「リサイクル」と呼び得ぬプルサーマル計画も全て「適正な原価」。そこに3%の利潤が保障されるのですから、破綻した社会主義国の計画経済も真っ青の殿様商売です。この点こそ、国会質疑やメディアで議論されるべき「電力改革」です。