ニッポン維新(127)民主主義という幻影―13

テレビ放送が開始されると当たり前のように国会中継を行なってきた日本。ポピュリズムを生み出すとして議会のテレビ中継を認めなかったアメリカとイギリス。そしてベトナム戦争後にようやく議会中継を始めたアメリカと冷戦後にスタートさせたイギリスの放送内容を紹介してきました。

NHKの国会中継とアメリカやイギリスの議会中継に違いがある事をお分かり頂けたと思います。「国民に開かれた政治が民主主義」とか、「国民の前で与党と野党が丁々発止やり合う政治が民主主義」と思い込んできた方には意外だったかもしれません。国民に開かれた政治はもちろん民主主義にとって必要です。しかし国民に迎合する政治家と大衆心理が重なる事を欧米の政治は警戒します。また政治から発信される情報に国民が「洗脳」され、知らないうちに「操作」される可能性もあります。国民に政治を読み解く技術、メディアを読み解く技術を教えないと、開かれた政治がプラスになるとは限らないのです。

与野党が国の針路を巡って丁々発止と「論戦」を行なう事は民主主義にとって必要です。しかし議員個人のスキャンダルや発言の一つ一つを捉まえて与野党が対立すれば、政治は停滞するばかりで国民の利益にはなりません。ところが「与野党対立こそ民主主義」とか「開かれた政治が民主主義」と単純に思い込む人が多いのです。

戦後の日本を占領したGHQによって民主主義を「絶対正義」のように教えられてきた日本人は、民主主義について多くの勘違いをしているように思います。その勘違いを是正していかないと不毛の政治が続きます。日本人が「民主主義の常識」と思い込んでいる事を取り上げて背後にあるものを探ってみたいと思います。

まず日本には、複数の政党があり、国民から選ばれた議員が議会で議論をし、多数決で決めているから民主主義だという「常識」があります。最近のアメリカが共産主義の中国やイスラム諸国と比較して「日本とは民主主義という価値観を共有している」と言いますが、その「常識」を裏付ける発言です。

ではアメリカは本当に日本を民主主義国だと考えているでしょうか。私にはそうは思えません。アメリカはは外交戦略上そう言っているのだと思います。国益のためならば独裁政権とも平気で手を組むアメリカが、中国やイスラム世界と対抗する必要から、日本を協力させるために使っているレトリックだと思うのです。

そもそもアメリカは日本を「理解を超えた異質の国」と見てきました。1945年、太平洋戦争に勝利して日本を占領すると、アメリカは「異質の国」の解体に取りかかります。日本を民主化してアメリカに同化させようと考えました。民主化政策が占領軍によってスタートします。

ところが1949年に冷戦が始まると事情は一変します。ソ連情報に精通した旧軍人や日本の軍需産業をアメリカは必要としました。民主化政策によって排除されるべき旧体制がアメリカによって密かに復活され温存されました。つまり「ソ連封じ込め戦略」が民主化政策より優先されたのです。

戦犯であった児玉誉士夫がその後の政財界に隠然たる力を持ち、アメリカの軍需産業ロッキード社の秘密代理人となっていた事実や、やはり戦犯の岸信介氏がアメリカの後押しで最高権力者にまで上り詰めた事がその一端を物語っています。しかしそうした事実は当時の厳しい情報統制により国民に知らされる事はありませんでした。そして表向きの民主主義だけが日本人の心に「絶対的正義」として残されたのです。

戦後の日本を支配したGHQは日本の官僚機構を手足に使う間接統治を行ないました。そのため霞が関の官僚機構は、力の中枢が内務省から大蔵省に移行しても、総体としての力は失われず、明治以来の支配構造は不変でした。その上で「ソ連封じ込め戦略」はヨーロッパでは西ドイツ、アジアでは日本を経済的に繁栄させる事になります。共産主義の世界浸透を食い止めるためです。

こうして「反共の防波堤」となった日本は、アメリカの庇護の下で経済成長を続け、西ドイツに次いで世界第二位の経済大国となりました。経済成長には政権交代のない政治の仕組みと官僚主導による輸出中心の経済の仕組みが大きく貢献しました。

冷戦も終わりに近づき世界が構造変化すると、「反共の防波堤」としての日本の役割はなくなります。むしろ日本はその経済力によってアメリカにソ連以上の脅威を感じさせる国となりました。1980年代のアメリカは厳しく日本を批判しました。日本の政界事情に詳しいアメリカ人学者は、日本、キューバ、北朝鮮の三国をアメリカから最も遠い「異質の国」と呼びました。

日本には複数の政党があり、国民から選ばれた議員が議会で議論し、多数決で物事を決めるが、政権交代がないのだから民主主義ではない。民間経済は官僚の規制に縛られ、社会主義の計画経済と変わらない。にもかかわらず日本人は日本を民主主義だと思っている。それは国民が「洗脳」され、民主主義を理解出来ないからだと言ったのです。(続く)