ニッポン維新(171)情報支配―21

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2003年3月、アメリカのブッシュ大統領はイラクのサダム・フセイン政権が大量破壊兵器を保有しているとしてイラク戦争を開始しました。日本の小泉政権はすぐアメリカ支持を打ち出しましたが、フランスのシラク政権やドイツのシュレーダー政権は武力行使に強く反対し、国連の支持がないまま戦争は始まりました。
イラク戦争には湾岸戦争と違い数々の問題があります。しかし日本のメディアはブッシュ政権に都合の良い側面ばかり報道し、世界の報道の流れとは異なっていました。多彩な情報を伝えるメディアがない日本では国民は一面だけの情報で問題を判断させられていたのです。
イラクに大量破壊兵器があるという情報は後に「でっちあげ」である事が分かりました。CIA工作員を妻に持つ元外交官がブッシュ政権の情報操作をニューヨーク・タイムズに暴露したのです。アメリカの武力行使を最も強く支持したイギリスのブレア政権では政府の方針に反対する閣僚が相次いで辞任し、ブレア首相も支持率を急速に下げ、任期を全うすることなく退陣に追い込まれました。
イギリスと同じくアメリカを支持して軍隊を投入したオーストラリアでは国防大臣が「イラク戦争の目的は原油の確保だった」と発言して開き直りますが、戦争を支持したデンマークの国防相は辞任を余儀なくされ、ポーランドの大統領は「アメリカに騙された」と批判しました。しかし日本では小泉政権に対する批判の声が高まる事はありませんでした。
アメリカがイラク戦争を起こした本当の理由は、サダム・フセイン大統領が石油の決済通貨をドルではなく、ユーロで行おうとしたためだと言われています。それが現実になればドルは世界の基軸通貨の地位をユーロに奪われかねません。アメリカが世界の覇権を握る絶対条件としているのは、世界最強の軍事力と情報力で世界中の資源を抑え、ドルを基軸通貨にしておくことですが、その絶対条件が崩れかかったのです。
ユーロ圏の二大大国であるフランスとドイツがイラクに対する武力行使に強く反対したのは、背後に石油の決済を巡るドルとユーロの戦いがある事をうかがわせるものですが、日本国民がそうした視点で戦争を見る事はありませんでした。新聞も地上波テレビもBS、CSの衛星放送も、日本のメディアはすべてアメリカ側に立って報道していました。
その頃、四国にある小さなケーブルテレビ局から興味深い話を聞きました。その局は経営規模が小さいため、無料で放送できる外国の電波を自前で受信し、多チャンネルを埋めようとしましたが、無料放送が可能だったのはフランスとドイツの国営放送でした。
加入者からは日本語の吹き替えのないチャンネルに文句が出たそうです。ところがある日、アンテナの調子でフランスとドイツの放送が受信できませんでした。すると思いもよらない事が起きました。加入者から苦情が殺到したのです。つまり誰も見ないと思っていたチャンネルを加入者は見ていたのです。理由はイラク戦争でした。
フランスとドイツの放送には、イラク側から撮影した戦争の映像が流れていました。当時の日本のテレビには米軍側から撮影した映像しか流されておりません。加入者は初めて異なる視点から戦争を見ることが出来て新鮮な興味を覚えたのです。
世界中どの国に行っても衛星放送やケーブルテレビの多チャンネルにはフランスとドイツの国営放送が組み込まれています。私自身もタイ、ベトナム、台湾、香港などで見ました。むしろない方が珍しいのですが、経済大国である日本の衛星放送やケーブルテレビにはないのです。外国のチャンネルはアメリカとイギリスが中心で、日本は圧倒的に英米の論理に組み込まれているのです。
私がCS放送の担当者に「なぜフランスやドイツのチャンネルがないのか」疑問をぶつけると、「視聴率が取れないから」と言われました。しかし世界中の国がやっていることを日本がやれないはずはありません。やれる仕組みを作れば良いのです。四国のケーブルテレビ局は経費削減のためにそれをやりました。「視聴率が取れない」は理由になりません。
この国のどこかに「英米の論理を国民に刷り込め」と指示している勢力があるのではないかと疑りたくなります。民主主義の原理を無視して新聞とテレビが一体となり、次に多チャンネルの流れに背を向けてBS放送を続ける日本は、再び国民を戦前の大本営発表の時代に戻そうとしているのではないかと考えてしまいます。(続く)