田中康夫の新ニッポン論 ⑨「ダライ・ラマ14世」

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ダライ・ラマ14世は去る十一月十九日夜、中国政府の施策に抗議して相次ぐチベット族僧侶らの焼身自殺に関し、増上寺での対話集会で質問を受けました。英語も堪能な氏はチベット語で答え、通訳は「尊く素晴らしい行為」と訳します。

けれども、その深夜に通訳は、焼身自殺の行為自体を肯定する言葉は一切なかったとして、「『驚くべき行為』と訳すべきだった」と訂正するのです。

「暴力的な国で、非暴力のチベットの人々が苦しんでいる。仏教者として出来る事は何か」と問うたのは、チベット支援の活動を続ける日本の若い僧侶。それに対して、「一人の仏教者として非常に心が痛む悲しい出来事だ」と答えるに留めたダライ・ラマの“深意”は、今回の来日直前に亡命先のインドで共同通信に語ったインタヴューからも窺えます。

胡錦濤前指導部の過去十年間のチベット政策は「力を用いた方法で恐怖と不信を齎した」と批判する一方、習近平国家主席は「現実的な思考の持ち主のようだ」と評価し、「我々は独立を求めていない。経済発展する中国に残る事がチベットの利益になる。中国はチベットの言語や文化の保護を認めるべき」と会見しています。

自らが長年に亘って主導し、欧米国家も支持するに至った、チベットの高度の自治を求める穏健路線「中道のアプローチ」は、多くの中国人の知識層や元官僚らも支持し始めていると語り、その上でダライ・ラマは「チベット人に高度の自治を認める可能性に関して習主席が自ら語るには時期尚早のようだ」と付け加えたのです。

即ち、習近平・李克強体制が崩壊したなら江沢民に象徴される軍産複合の既得権益集団が再び跳梁跋扈し、それに対する反発はチベットや新疆ウイグルのみならず、「格差社会」に憤る漢族にも燎原の火の如く拡がり、中国全土がカオス状態に陥る危険性を憂慮するホワイトハウスとも綿密に連携した上での戦略的な発言です。

翻って日本では内閣府の世論調査で、国民の81%は中国に親しみを感じず、日中関係は良好でないが91%に達しています。他方でアメリカとの関係は84%が良好だと思うと回答しています。

が、そのアメリカでは、「アジアで最も重要なパートナー」は中国が39%で第一位に躍り出て、日本は35%と前年比15ポイントの大幅減。日本の外務省が実施した世論調査です。而して有識者に対する同じ調査では今回を含め、既に四年連続で中国がトップなのです。

今や商用機数が二千機を超えた中国は今後二十年間で、商用ボーイング機に限っても五五八〇機を投資額八千億ドルで購入するとボーイング社は予測しています。それは、全世界の航空機需要の16%を占める数値です。

“眉中派”ならずとも、これらの冷厳な現実を冷静冷徹に日本は捉え、中国・アメリカ両国との間合いを慎重に模索しないと「日本包囲網」は深刻化するばかりです。

最後に田母神俊雄氏のブログから紹介します。曰く「防空識別圏=ADIZ」の設定自体は各国が自由に行う代物。地続きの欧州諸国では他国の領土上空にも設定され、多くは重複している。今回の問題は、ADIZに名を借りて東アジアの空域を中国が管轄すると高言した点。ここをきちんと「識別」した議論が肝要だと。卓見です。

驚く勿れ、日本のADIZには三宅島以南の小笠原諸島が含まれていません。1945年にGHQが設定した米軍譲りを先の東京五輪開催の1964年に頂戴してから半世紀、見直してないのです。「押し付け憲法」は屈辱と激高する前に即時変更可能で、覇権主義とは異なる意味での自立へと繋がる第一歩を何故、日本は実行しないのでしょう? ウ~ム。