田中康夫の新ニッポン論 ⑬「合計特殊出生率」

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一人の女性が一生に産む子供の平均数を示す人口統計上の指標が合計特殊出生率。日本の公衆衛生を勘案すると2.07で推移した場合に人口は横ばい状態を保つ、と国立社会保障・人口問題研究所は推計しています。

日本は現在1.41。女性が出産育児&職場復帰し易い社会環境を如何に整えようとも、2.07は夢想の世界。故に日本の人口は二〇六〇年に八七〇〇万人、二一一〇年に四三〇〇万人まで減少と試算されています。

内閣総理大臣が議長を務める政府の経済財政諮問会議は一月末、「『未来は政策努力や人間の意志によって変えられる』という認識に立って、常識にとらわれず大胆な選択肢を検討」するべく、新日鐵住金名誉会長で日本商工会議所会頭の三村明夫氏を会長とする専門調査会「選択する未来委員会」を設置しました。

「日本の人口『移民で一億人維持可能』政府、本格議論へ」と「朝日新聞」が、「毎年二〇万人の移民受け入れ 政府が本格検討開始」と「産経新聞」が見出しを打って報じた件の委員会で内閣府は、「少子高齢化に伴って急減する労働力人口の穴埋め策として」「外国からの移民を毎年二十万人受け入れ」「合計特殊出生率が人口を維持できる2.07に回復すれば」「百年後も人口は一億人を保つことができる」と「試算」を示しました。

何たる机上の空論な大本営発表! 事実婚=PACSの法的整備と手厚い児童手当が功を奏して合計特殊出生率は欧州トップに躍り出たフランスですら2.01(欧州平均1.6)。而(しか)も深刻な移民問題・治安問題に直面しています。

が、会長代理の元日本銀行副総裁で日本経済研究センター理事長の岩田一政氏は提出資料で「年間二十万人の移民受け入れで」「出生率を2.1に」すれば「二〇五〇年まで平均1.4%成長」して「国民負担率低下」も実現するが、現行の「緩やかな改革」では「二〇三〇年頃にゼロ成長からマイナス成長」となり「二〇五〇年に経済規模世界四位に転落」し「消費税は25%に、国民負担率は5割超え」、「生活水準は2割低下」と“天国と地獄の黙示録”を表明。

更に「中国も今後は人口減に見舞われるため、右肩上がりではなくなるが、それでも二一〇〇年は日本の四倍だ。日本は世界11位に落ちる。これでは米国や中国などに対し、対等な交渉をすることは難しくなる」とも。呵々。その見解を演繹すれば、日本外交が右往左往している原因は、遙か昔から両国よりも人口が少ないからって論法になります。

日露戦争時の人口は四七〇〇万人。奇しくも百年後の予測人口です。「未来は政策努力や人間の意志によって変えられる」なら、その規模を前提とした「大胆な選択肢を検討」すべき。それでこそ石橋湛山翁や大平正芳翁の衣鉢を継ぐ、量の拡大から質の充実を目指す富国裕民の政治。実際問題、自国内での農業生産を維持しつつ、モードに象徴される世界に冠たる高付加価値のブランドで地歩を固めるフランスもイタリアも人口は、日本の半分なのですから。

「高度人材だけでなく技能者や技術者も受け入れていい」と内閣府で議論が進む「移民」とは一時的な外国人労働者と異なり、その子女も含め国籍も参政権も付与される存在です。植民地統治の歴史を抱えるイギリスとフランスは用意周到に受け入れの条件を整備。それでもトラブルが絶えません。

「日本を、取り戻す。」とナショナリズムを唱和する面々が、他方で新自由主義的な「開国」に邁進し、「国柄」と称する日本のアイデンティティを喪失しかねぬ自家撞着に陥っています。なのに熱狂的支持者は異議申し立てもせず無反応。不可解な鈍感力ニッポンです。