10/11/15 “お子ちゃま”外交の返上を◆共同Weekly

今や日本は、中国にとってもロシアにとっても、勿論、アメリカにとっても”都合のいい国”になってしまいました。「哲学」「戦略」「覚悟」の何れも希薄な政治が原因で、各国に付け入る隙を与えています。
中国は貪欲(どんよく)に国益を追求するナショナリズムの大国で怪(け)しからん、と憤るのは簡単。ドミトリー・メドベージェフ大統領が国後島を訪問したロシアも同様。が、思えばアメリカとて、貪欲に国益を追求するデモクラシーの大国。外交とは、笑顔で握手しながら、机の下では”急所”を握る闘い。とするなら、ソ連邦解体後に国後島、択捉島で空港を含むインフラ整備をロシアが推し進め、悪天候でも運航可能な計器着陸装置(ILS)が来年には両島に設置される迄の20年間、指を銜(くわ)えて見ていただけの日本が”お子ちゃま”だったのです。
その日本で突如”降って湧いた”TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)騒動。攘夷(じょうい)か開国かの不毛な二元論を超えた、国を改める「改国の在り方」を提示すべきにも拘(かかわ)らず、ここでも政治は迷走・混迷を続けています。
「国内総生産(GDP)の1.5%しか占めていない農林漁業を守る為に、残り98.5%のかなりの部分が犠牲になっている」と述べる向きが居ます。ところが、GDP比で僅か1.1%のアメリカでは、質量充実を目指す有為な専業農業生産者への手厚い「直接支払い」制度を堅持。ドイツ、フランス等の欧州連合(EU)でも同様です。
ただし、「直接支払い」制度は、”片手間農家”の地方公務員世帯が”ヤミ手当”を得てしまう、本末転倒な日本の「戸別所得補償制度」とは似て非なる代物。耕作物の殆どを自家消費し、申し訳程度に米を出荷する第二種兼業農家にも生産コストが販売価格を上回れば補てんしていては、ウルグアイラウンド対策と称して、農業の自律とは対極のハコモノ公共事業に6兆円も投じられた愚行の繰り返しです。
他方、TPPは農業、工業に留まらず、金融、保険、医療、更には電波、放送に至る迄、詰まりは看護師・介護士等の人的サーヴィスもゼロベースで貿易自由化と関税撤廃の俎上(そじょう)に乗せる仕組みです。シンガポール、ブルネイ、チリ、ニュージーランドの4カ国加盟で2006年に発効。その後、アメリカ、オーストラリア、ペルー、ヴェトナム、マレーシアが参加を表明。そこにAPEC(アジア太平洋経済協力会議)議長国ニッポンも加わらねばバスに乗り遅れる、と菅直人首相は前のめり状態です。
11月8日の予算委員会で、僕は菅首相に「何故TPPありきなのか」と質問しました。「開国」も「改国」も先行する韓国ではFTA(自由貿易協定)とEPA(経済連携協定)は同じ意味合い。関税や制限的通商規定の撤廃を決めるFTAこそが繁栄の道と既に盧武鉉政権下で動き出し、アメリカ、EU、ASEAN(東南アジア諸国連合)等と締結済み。であればこそ李明博政権はTPPに静観の姿勢です。
アメリカ主導のTPPへの参加ありきでは最大貿易相手国の中国との軋轢(あつれき)を生むのは必至。菅首相も、「包括的経済連携に関する基本方針」に記された「関係国との協議」は「TPP加盟国に留まらない」と言明しました。日本も「先ずは全ての諸国とFTA」を目標に掲げ、締結の実績を重ねるべきです。