ニッポン維新(106)改革のためにー6

私が「小沢氏は必ずスキャンダル攻撃に遭う」と予言したのは、明治以来のこの国の統治構造が頭の中にあったからです。官僚が司令塔となりそれに政界と経済界が協力してやって来た構造は戦後のもので、戦前は天皇を中心とする薩長藩閥官僚政府と自由民権運動の流れを汲む政治家たちとの戦いの歴史でした。

高額納税者にしか選挙権がなかった時代ですが、しかし選挙では民権派の議員が官僚派の議員を上回る傾向がありました。最初の国会ですでに政府が作った予算案は否決される運命にありました。これに危機感を抱いた薩長藩閥政府はあらゆる手段を使って民権派議員の切り崩しを図ります。特に実力のある議員に対しては「金権政治家」、「利益誘導型政治家」のレッテルを貼り、国民の怒りを誘うようにしました。

民権派の政治家として有名な星亨や原敬は、いずれも官僚にとって手強い存在でした。二人とも官僚側から「金権」「利益誘導」の刻印を押され、報道によって義憤を感じた庶民から暗殺されてしまいます。官僚が二人の何を「利益誘導」とか「金権」とか言って問題にしたかと言えば鉄道建設です。

民権派の政治家は官僚の中央集権政治に対し、地方に鉄道を敷くことで利益を地方に分配しようとしました。それが国民には人気でした。それを官僚政府は怖れた訳です。予算を分配する仕事は官僚の仕事である。政治家に利益の分配を奪われたくない。それがいつの時代も官僚の本音です。こうして官僚政治に挑戦する政治家には「利益誘導」とか「金権」のレッテルが貼られるようになりました。

戦後も同じことが起こります。田中角栄氏に「金権政治家」のレッテルが貼られました。ロッキード事件を取材していた私には田中角栄氏を逮捕して幕引きした捜査はまったく理解できないものです。ロッキード事件で逮捕されなければならない政治家は田中角栄氏ではないからです。しかし総理経験者の逮捕という衝撃と、メディアの「金権批判」の大合唱の中で、事件の真相は目くらましにされ、「政治とカネ」のスキャンダル追及が日本政治の最大課題となっていきました。官僚には都合の良い展開でした。

そして1989年に自民党の政権運営に初めて危機が訪れました。参議院選挙で結党以来初めて過半数を失い、33年ぶりに「ねじれ」が生まれたのです。この時、真っ先に自民党がやったことは野党第一党の党首である土井たかこ氏のスキャンダル調査でした。土井氏の「金」と「男女関係」が徹底的に洗い出されました。しかし追及できるネタはなかったようです。自民党幹部が首をひねりながら「おかしい」と言って悔しそうにしていたのをはっきり覚えています。

次に自民党に危機が訪れたのは1993年の細川政権の誕生です。自民党は初めて野に下り、政権復帰の目処が立ちませんでした。この時も細川総理周辺のスキャンダルが徹底的に洗われました。その結果、何があったかは知りませんが、政権誕生から1年も経ずに突然細川総理が退陣を表明し、政界は大混乱に陥りました。8つの党と会派が集まって出来た新進党はバラバラになり、社会党の委員長を総理に担いで自民党は権力の座に戻ることが出来ました。

過去の歴史を考えるとき、参議院で過半数を失い「死に体」になった自民党が真っ先に手をつけるのはスキャンダル調査です。しかも自民党から見れば怖いのは民主党ではありません。民主党はこの国の統治構造を知らない素人衆団ですから操るのは簡単です。怖ろしいのはただ一つ小沢一郎氏が代表の座にあることです。

小沢一郎氏を代表の座から引きずり降ろして、あわよくば議員辞職に追い込む、それが出来れば、政権交代が実現したとしても怖いことはありません。そのシナリオが必ず動き出すはずです。それが07年の参議院選挙開票日に私が予言をした理由です。そしてそれは政権交代がかかった衆議院選挙を目前に、09年3月、小沢一郎氏の大久保秘書逮捕となって現れました。しかしこの逮捕劇には元司法担当記者の私から見て不思議なことが色々ありました。(続く)