ニッポン維新(113)改革のためにー13

オバマ大統領の政権基盤は決して強固なものではありません。大統領選挙の予備選挙ではヒラリー・クリントン氏との間で民主党を真っ二つにする戦いを演じました。そのため本選挙ではヒラリー陣営の支持を取り付けるために様々な妥協を強いられました。

本選挙の序盤では共和党のマケイン候補にリードを許しましたが、9月のリーマンショックで形勢が逆転し、大差で勝利する事が出来ました。しかし大差と言ってもアメリカ大統領選挙は州毎の選挙人の総取り方式ですから、得票率は53%と過半数をやや上回る程度です。

このためオバマ大統領はヒラリー氏を国務長官として重用し、また国防長官に共和党のゲーツ氏を留任させるなど、四方に気配りせざるをえない体制でスタートしました。「核廃絶宣言」や「イスラム世界との和解」など当初は目を引く独自カラーを打ち出しましたが、次第に旧来の手法に取り込まれていったように私には見えました。

そもそも「核廃絶宣言」は、核兵器をなくすと言うより、米ロ間で行ってきた核軍縮交渉に中国を加える狙いがあると私は見ていました。米中ロの三国が核軍縮で手を結べば、世界の安全保障環境は著しく改善されます。

中国の力で北朝鮮の核を封じ込める事も可能です。オバマ大統領は2010年4月にワシントンで「核セキュリティ・サミット」を開催すると打ち上げました。その流れが順調に推移すれば、北東アジアの平和はより確実になり、沖縄の海兵隊をグアムに移転する可能性も高まります。

鳩山総理はそうした流れに期待したのかも知れません。しかし情勢はまるで逆に動き出しました。オバマ大統領の本意だったかどうか分かりませんが、アメリカは米中関係を冷却化させる方向に踏みきり、「核セキュリティ・サミット」は成果を上げないままに終わりました。

普天間問題についてアメリカ政府は自民党政権との合意を変えない事を強硬に主張してきました。合意した時の政権は共和党ですから、ゲーツ氏が長官を務める国防総省は当然ながらその路線です。また普天間移設で初めに日米が合意した時のアメリカ大統領はヒラリー氏の夫です。ヒラリー氏も夫の路線を引き継ぎ、ヒラリー氏が長官を務める国務省もその路線です。

国務省、国防総省のカウンターパートである日本の外務省、防衛省も当然ながら自民党時代と同じ路線です。そのため鳩山総理とは異なる路線を岡田外務大臣と北澤防衛大臣が主張し始めます。それを総理が抑えられません。鳩山政権は総理と閣僚がバラバラとなり、迷走を始めました。

外交交渉は初めから本音を言い合うものではありません。お互いが自分の利益をぎりぎりまで主張します。そのままだと不利益が生ずるという所まで行って初めて譲歩するものです。また相手の本気度を試すと言うこともあります。わざと本音ではない事を言って、相手の本気度を試すのです。ねばり強く頑張ると突然こちらの要求を飲むことがあります。

しかし鳩山総理は自分の部下である外務大臣や防衛大臣を抑えられない訳ですから、アメリカが譲歩するはずはありません。本音では海兵隊をグアムに移転させようと思っていたとしても、交渉を難しくすればより高い金額を日本から取れると考えます。ついに鳩山総理はアメリカのメディアから「ルーピー(くるくるパー)」と酷評されるようになりました。(続く)