10/05/17 愉快犯のごとき政府見解◆共同Weekly

何とも摩訶(まか)不思議な話です。政党の「略称」に関する規定が公職選挙法上にない から、複数の政党が「同一略称」を掲げて国政選挙に臨むのは致し方ない、と政府は“問題先送り”を決め込んでいるのです。
新党日本は過去3回の国政選挙を略称「日本」で戦っています。「新党日本」を政党の名称、「日本」を政党の略称として、中央選挙管理会に届け出、受理さ れ、官報にも告示されています。投票記載台の上部に掲出される政党一覧表に、正式名称と共に「略称」が明記されてきたのも、略称での投票を中央選挙管理会 が認めてきた証左。政党名も略称も、商標登録などにはなじまないから、官報に告示し、保護してきたのです。
にもかかわらず、「政党『同一略称』に関する質問主意書」に対する鳩山由紀夫内閣総理大臣名の答弁書は「議論の余地があることは承知している」と認める 一方で「現行の公職選挙法が改正されない限り、今後同様の事案が生じても、同様の対応をとる」と驚くべき政府見解を開陳。
では、法改正を行うのかと思いきや、中央選挙管理会を付属機関に置く総務省の原口一博大臣は会見で「わたしたちには止める手だてがない。総務省の権限を 越えている」と傍観者的発言。掛け声倒れの「政治主導」はここでも迷走しています。
総務大臣には、有権者や候補者、報道機関をはじめとする国民の間に、「同一略称」が理由で混乱・誤認、迷惑・被害が生じるのを回避する責務があります。 テロ勃発(ぼっぱつ)も金融危機も、前例がない、規定がない事態だからこそ、他国は混乱を防ぐために「政治主導」を発揮しているではありませんか。
同一略称問題は、たちあがれ日本と新党日本の2党間の問題にとどまりません。
仮に5人の国会議員が新党「まともな民主」を結党、略称を「民主」とし、あるいは「自由民権党」を結党、略称を「自民」で届け出た場合も、さらには既存 政党の社会民主党が「社民」から「民主」へと略称を届け出変更した場合にも、同様に受理し、官報で告示すると、総務省自治行政局選挙部は愉快犯のごとき見 解を明言しています。
「日本」と記した一票は二つの政党に案分すると政府は答弁書で示す一方、届け出略称以外の「たちあがれ」と記した一票は他に類推される政党が存在しない から、たちあがれ日本の得票だと、「一粒で二度おいしい」見解も述べる始末。
新党日本との混同を防ぐべく、複数の報道機関は現在、「たち日」と表記しています。有権者に対する善意の配慮と言えましょう。が、今後、官報に「同一略 称」が告示された場合、報道機関は苦渋の決断を迫られる事態に陥ります。
憲政史上、類を見ない混乱・被害の発生が不可避にもかかわらず、各政党代表者が一堂に会して善後策を協議する円卓会議を開催する意志すら見せぬ政府は、 「行政の不作為」とも言うべき状態で、そのガバナビリティー(統治能力)を疑います。
今回の「同一略称」問題は、混迷ニッポンを象徴しています。沖縄の米軍普天間飛行場移設問題、日本航空の経営再建問題と同様、これこそ、哲学も覚悟も持 ち合わせぬ“洞察力なき政治‘で生じた、「政治不信」の増幅ではありますまいか。