ニッポン維新(169)情報支配―19

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官僚主導の日本では官庁が産業界を「行政指導」によってコントロールしています。その中で、事業者に自由に競争をさせず、競争力の弱い事業者を落伍させないよう官が全体を統制するやり方を「護送船団方式」と呼びます。
「護送船団方式」が典型的にみられたのは金融業界ですが、冷戦後のグローバル化によって日本の金融業界は国際競争の波にさらされるようになり、「護送船団方式」が最後まで残った業界はメディアでした。
テレビの世界では、NHKがいわば護送船団の先頭に立ち、その後に全国ネットの民間キー局が続き、それから準キー局、ローカル局、そして最後方にケーブルテレビなどの多チャンネル放送が位置付けられています。それぞれのテレビ局が勝手に秩序を壊すことは許されません。そして民放テレビと新聞社が系列である事から新聞も含めたメディア業界全体が一つとなる構図が出来上がっています。
こうした構図の中で、世界のどの国もやっていないBS放送とハイビジョンがNHKを先頭に始まりました。そして日本の新聞はBS放送とハイビジョンを「高度情報化社会の切り札」と持ち上げました。それが世界の主流ではない事実は国民に伏せられたままにです。世界がデジタル技術と情報の多彩さを追求している時に、日本はBSアナログ放送で画質の良いテレビを追求していたのです。
NHKのBS放送は「難視聴対策」と言いながら地上波と同じ内容ではないため、NHKはそれまで以上の数の番組を制作する必要に迫られました。NHKは番組を外注するようになります。注文を受ける制作会社は民放テレビの番組も作っていますから、NHKの番組は民放局と似た手法で作られるようになりました。
またBS放送の開局と同時に特殊法人であるNHKは子会社を持つことが認められ、30を超える株式会社が子会社として誕生しました。子会社にはNHK職員が天下りし、子会社と広告代理店電通がそれまでNHKには許されていなかった新規事業を始めました。
電通は広告代理店ですからそもそもCM放送を行う民放テレビと仕事をしてきた企業です。受信料で支えられたNHKとは無関係の存在でしたが、BS放送の開始と共にそれが変わりました。NHKは大河ドラマとタイアップしたイベントの開催や、企業の商品を画面に映して企業から宣伝料を取ることをやるようになりました。
特殊法人であるNHKの予算は国会で審議され承認を受けなければなりません。従って経理内容も公開を義務付けられていますが、株式会社である子会社の経理内容はその対象となりません。特殊法人NHKの経営を監視するいわば株主総会に当たるのが国会だとすると、子会社の経営を監視するのは株主である親会社のNHKです。子会社に国会の監視の目は届かないのです。
こうした構造は、NHK本体と子会社との間で経理操作を行えば、不正な資金をねん出する事を可能にしました。それが不祥事を頻発させる事になります。2004年に音楽番組プロデューサーが番組制作費5千万円を着服していたことが発覚すると、ソウル支局長も下請会社に水増し請求させて4千万円を超える裏金を作っていたことが分かり、それ以外にもカラ出張や制作費の不正請求が日常茶飯事のごとくNHKに蔓延していた事が判明しました。
NHKの不祥事は受信料不払い運動に発展しますが、それを伝える新聞にも同じような不祥事が起こりました。読売新聞社が日本テレビの株を第三者名義で保有していたことが分かり、有価証券報告書の虚偽記載の疑いをもたれます。すると朝日も、毎日も、日経も、産経もすべての新聞社が地方テレビ局やラジオ局の株式を他人名義で保有している事が分かりました。
有価証券報告書の虚偽記載は資本主義の原則を踏みにじる犯罪行為です。同時に新聞社が弱小メディアを系列支配することは民主主義の根幹であるメディアの集中排除原則に反します。つまり日本のメディアは資本主義と民主主義の両方の原則に反していました。
しかし「護送船団方式」のメディア界では誰も業界の恥部を暴けません。結局、問題は一部の不心得な人間の不祥事として片づけられ、メディア界の腐敗した構造に手をつける動きは起きませんでした。そして問題なのは、情報化社会と言われながら国民は似た内容の情報ばかりを注ぎ込まれ、世界に比べて「情報過疎」の状態に置かれている事です。(続く)