田中康夫の新ニッポン論 ⑧「日本包囲網」

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大半のメディアは、ビル・クリントン政権で国家情報会議議長、国防次官補を歴任し、ハーバード大学ケネディ行政大学院長だったジョセフ・ナイ、国務副長官をジョージ・W・ブッシュ政権で務めたリチャード・アーミテージ両氏の10月末の来日時の発言を、何故か積極的には報じませんでした。同盟国の深意と憂慮を冷静に把握する好機だったにも拘らず。

「参拝するなと(中韓両国から)言われたら逆に首相は参拝すべき」と10年近く前には公言していたアーミテージ氏は安倍晋三首相の靖国神社参拝に関して、「これまで積み上げてきたものを全て壊すインパクトがある」と自民党幹部に強調と毎日新聞が報じ、日本経済新聞が米国の戦略国際問題研究所(CSIS)と共催のシンポジウムでナイ氏も、「参拝すると大きな打撃を近隣諸国に与え、米国との関係でもマイナスの波及効果になる」と発言。同研究所幹部は「日本が強硬姿勢を続ければ米議会も背を向ける」と指摘しました。

その約1ヶ月前に2プラス2=日米安全保障協議委員会で来日したジョン・ケリー国務長官とチャック・ヘーゲル国防長官は首相官邸へ赴く直前、日本側の招待でなく米国側の意向で千鳥ヶ淵戦没者墓苑を訪れ、「アーリントン国立墓地に最も近い存在」と同行の国防総省高官は記者団に説明。「日本の防衛相がアーリントンで献花するのと同じように(戦没者に哀悼の意を表した)」との両長官の発言をAFP通信が報じています。

前述のシンポジウムでナイ氏は「(慰安婦の強制性と日本軍の関与を認めた)河野談話の良い点は、歴史問題に関して明確に処理した事。これを否定すれば日本に大きなダメージとなる」と発言。アーミテージ氏も「(日本は)従軍慰安婦問題に触れないで欲しい」と語りました。

数日後の115日、岸田文雄外相は参院外交防衛委員会で「(村山談話の)植民地支配と侵略によって、多くの国々、とりわけアジア諸国の人々に対して多大の損害と苦痛を与え」の箇所を「安倍内閣として引き継いでいる」と答弁します。半年前の515日の参院予算委員会に於ける首相答弁「全体として受け継いでいる」よりも具体的に、「疑うべくもないこの歴史の事実」、「痛切な反省の意を表し、心からのお詫びの気持ちを表明」に踏み込んだのです。

「白熱討論」と題し日経新聞と慶應義塾大学が共催した学生との意見交換会でもアーミテージ氏は、「日本が集団的自衛権を行使しなくても日米の友好関係は続くのか」との質問に対し、「100パーセント同盟は続く。ただ行使出来れば日本は東アジアの平和と安定により貢献出来る」と答えました。

イラク戦争時には「ブーツ・オン・ザ・グラウンド」を求めた彼は今回、解釈改憲で集団的自衛権を行使可能なのは南半球や中近東、更には東南アジアでもなく、「東アジア(日本、中国、朝鮮半島)の平和と安定」に限定ですよと日本に箍(たが)を嵌めたのです。

而(しか)して、アメリカの国別輸出入額で中国が日本を凌駕する現実を鑑みてか、慰安婦や靖国で中韓両国を刺激して(逆に米国が東アジアで集団的自衛権を行使せざるを得ない)不測の事態を引き起こす勿(なか)れと二人は復唱しています。

アメリカの意向は民主党、共和党の立場を超えて明々白々。無体(むたい)なのは中韓両国だ、と同じ感情的土俵に日本は上がらず「静観」し、君達が熱願する集団的自衛権も“伝家の宝刀”に留めるべく隠忍自重するのが望ましいとの「日本包囲網」なのです。

実は11月の来日直前にダライ・ラマ14世も亡命先のインドで「習近平国家主席は現実的な志向の持ち主。独立を求めず、経済発展する中国に残る選択がチベットの利益」と新見解を公言!その深意や如何に。残念、紙幅が尽きました。詳説は次号で。